最新研究成果

磁気圏界面磁束ロープは太陽風エネルギーの流入をコントロールするか?

長谷川 洋 / 助教

 

サブストーム(オーロラ爆発)や磁気嵐など、磁気圏内の活動現象は、太陽風のエネルギーが磁気圏に取り込まれるせいで発生します。このエネルギーの大半は、磁気圏の昼側前面で発生する磁気リコネクションの結果、持ち込まれると考えられています(図1a)。エネルギーの流入をもたらす磁気圏界面低緯度でのリコネクションは、太陽風磁場(IMF)が南向きの時に頻発します。しかし、リコネクションは必ずしも定常的に起きているわけではなく、リコネクションの効率が時間的あるいは空間的に変化したり、リコネクションの発生場所(リコネクションポイント)が移動したりすることがあります(2008年7月の記事)。

 

図1. 磁気圏の昼側前面で起きる磁気リコネクションと磁力線の動き(夕方側から見た図)。(a) 磁軸が傾いていない場合(春季と秋季)と、(b) 磁軸が傾いている場合(夏季と冬季)(Raeder, 2006)。赤点はリコネクションポイントの場所。

 

グローバル電磁流体シミュレーションを用いた最近の研究(Raeder, 2006)によって、低緯度の磁気リコネクションについて、興味深い特性が明らかになりました。地球の磁気双極子の軸(磁軸)が傾いていない時には、リコネクションがほぼ定常的に発生しうるのに対して、磁軸が傾いている時には、リコネクションが非定常になり、磁気フラックスロープ(磁束ロープ)が形成されやすくなるというものです(図1)。磁軸の傾きがない場合には、リコネクションは地球の閉じた磁力線とIMFが接触する場所で起こるので、常に開いた磁力線が新しく生成されます。この開いた磁束管は磁気圏尾部に輸送され、磁場エネルギーという形で蓄積されます。これがさまざまな磁気圏活動のエネルギー源となります。一方、磁軸が傾いている場合には、リコネクションは開いた磁力線を新しく生成するとは限りません。リコネクションポイントが複数存在し、リコネクションがすでに開いた磁力線の上で起こることがあるからです(図1b)。この意味で、磁軸が傾いている時のリコネクションは、磁気圏へのエネルギー輸送という観点からは、不利だといえます。

もしこのシミュレーション結果が正しいとすると、地球の磁軸は夏や冬に大きく傾いているので、複数のリコネクションポイントを伴う磁束ロープは、夏や冬に頻発することが予想されます。しかし、過去にそのような磁束ロープが磁気圏界面で観測されたという報告はありません。その理由として、@ 一点観測しかなかったために、磁束ロープの全貌を把握することができなかった、A 磁束ロープの特徴と生成機構であるリコネクションの特性とを結びつけることができなかった、などが挙げられます。そこで我々は、5機からなるTHEMIS衛星の観測データを解析し、真夏時に複数のリコネクションポイントを伴って磁束ロープが生成されうることを実証しました。

 

図2. グラッド・シャフラノフ(GS)法(Hasegawa et al., 2005)によって再現された磁束ロープの断面図。黒線は再現された面内の磁力線、色は紙面垂直方向の磁場強度を示す。

 

図2は、THEMIS衛星が2007年6月14日(北半球の夏至近く)に観測した磁束ロープの断面を、グラッド・シャフラノフ(GS)法というデータ解析手法を用いて再現したものです。この磁束ロープの左右両側には、反対向きのリコネクションジェットが存在しており、磁束ロープのほうへと向かってきていました。その結果、磁束ロープが押しつぶされ、中心部分が平べったくなって、ジェットと垂直の方向(図2のY方向)に引き伸ばされているとともに、中心付近で磁場がとても強くなっています。すなわち、磁束ロープの左右両側にリコネクションポイントがあったということです。実際、リコネクションによって加熱されたと思われる電子が、左右両側から磁束ロープの方へと飛んできていました(図3)。

 

図3. THEMIS衛星が観測した磁束ロープの模式図。

 

本研究によって、図1bに示したようなリコネクションが実際に起きていることが判明しました。しかし、磁束ロープそのものは様々な条件下で観測されており、いつも複数のリコネクションポイントを伴って発生しているとは限りません。図1のモデルの興味深い、そして検証可能な予測の一つは、磁束ロープが冬半球で形成され、さらに冬半球のより高緯度側へと流されていくということです。複数のリコネクションポイントを伴う磁束ロープの大半が、夏または冬に、そして冬半球で観測されるのかどうかが、今後調査していかなければならない問題です。

目を引く観測事実として、磁気圏の活動度は夏至や冬至付近に低くなり、春分や秋分付近に高くなるというのがあります。これを説明することのできる最も有名な説が、ラッセル・マクフェロン効果(Russell and McPherron, 1973)と呼ばれるものです。しかし、この効果だけではすべてを説明することができないとも言われています(Hakkinen et al., 2003)。図1に示した、夏や冬に複数のリコネクションポイントが形成されやすくなるというモデルも、磁気圏活動の季節依存性の一部を説明できる可能性があり、今後の定量的な解析が期待されます。

 

以上の結果は、Geophysical Research Lettersに出版されました。

参考文献:

Hakkinen, L. V. T., T. I. Pulkkinen, R. J. Pirjola, H. Nevanlinna, E. I. Tanskanen, and N. E. Turner (2003), Seasonal and diurnal variation of geomagnetic activity: Revised Dst versus external drivers, J. Geophys. Res., 108(A2), 1060, doi:10.1029/2002JA009428.

Hasegawa, H., B. U. O. Sonnerup, B. Klecker, G. Paschmann, M. W. Dunlop, and H. Reme (2005), Optimal reconstruction of magnetopause structures from Cluster data, Ann. Geophys., 23, 973-982.

Raeder, J. (2006), Flux Transfer Events: 1. generation mechanism for strong southward IMF, Ann. Geophys., 24, 381-392.

Russell, C. T., and R. L. McPherron (1973), Semiannual variation of geomagnetic activity, J. Geophys. Res., 78, 92-108.