最新研究成果

磁気圏からの高エネルギー酸素イオン流出: 北向き惑星間空間磁場でも磁気リコネクションが有効

笠原 慧 / 博士課程

 

地球の電離圏からは,毎秒約1026個もの酸素イオンが宇宙空間に流出しています(図1).

図1. 磁気圏内の酸素イオンの輸送経路を示す模式図.Seki et al.(2001)より抜粋.

 

電離圏の酸素イオンのエネルギーはもともと1eV以下ですが,その一部は0.1-1keVくらいに加熱されて湧昇します.電離圏から湧き上がった酸素イオンの内,あるものは磁気圏の尾部方向,すなわち太陽と反対方向に吹き抜けて惑星間空間に飛び去ります(図1の経路iv).またあるものは,いったんは尾部方向に流れていくものの,その後プラズマシートを経由し,100keV以上ものエネルギーを獲得して地球近傍(内部磁気圏)へと帰ってきます.

後者の,内部磁気圏における中間/高エネルギーイオンは,リングカレントイオンと呼ばれます(参考:「中間エネルギーイオン分析器の開発).地球を取り巻く(準)環状電流を形成する事が,その名前の由来です.

リングカレントイオンは,磁場ドリフトによって地球を西向きに回ろうとしますが,大部分は”曲がりきれず”に磁気圏前面のマグネトポーズから流出します(図1の経路ii).実際,マグネトポーズの上流(マグネトシース:図1の左端)ではリングカレント起源と思われる高エネルギーイオンがたびたび観測されています.

さて,問題は,このマグネトポーズでの流出が,どのような物理プロセスを経て起こっているかということです.表1に,先行研究から明らかになっている流出過程を示してあります.

 

表1. 過去の研究における流出プロセスと惑星間空間磁場(IMF)の関係.

 

有限ラーマー半径効果

磁気リコネクション

北向きIMF

 

Paschalidis et al. (1994)
その他

??

南向きIMF

Zong et al. (2001)
その他

 

まず,惑星間空間磁場(interplanetary magnetic field, IMF)の子午面成分が南向きのときには,昼側低緯度のマグネトポーズでの磁気リコネクションを介して流出するという報告があります.磁気リコネクションが起これば,マグネトポーズに”亀裂(穴)”が生じるので,その亀裂から流出していく,というモデルです(Zong et al., 2001 及びその引用文献参照).

一方,そのような流出過程はさほど重要でないと結論付ける研究もあります.マグネトポーズに到達したイオンの粒子の動きを考えると,磁力線に巻きつくラーマー運動の一部でマグネトポーズの上流側(マグネトシース)に顔を出すため,そこでのピッチ角散乱等によって上流に所属するようになってしまうものがあろう,というモデルです(Paschalidis et al., 1994 及びその引用文献参照).このような,リコネクションを必要とせずに磁気圏外へ”浸みだし”ていく過程を,有限ラーマー半径効果(finite Larmor radius, FLR効果)による流出と呼びます.このFLR効果モデルの有効性は,IMFの南北成分にそれほどよらないと考えられています.

今回,私達がGeotail衛星のデータを解析した結果,表1の??の部分を埋める結果が得られました(図2).IMFの南北成分が北向きのときにも,磁気リコネクションが高エネルギー酸素イオンの流出に一定の役割を果たすらしいということがわかったのです(Kasahara et al., 2008).

図2. 観測結果を説明する模式図(図1とは地球を眺める向きが異なることに注意).夕側高緯度マグネトポーズでの閉じた磁力線(水色)と,北向きのマグネトシース磁力線(黄色)との磁気リコネクションにより,リングカレント酸素イオンが流出し(黒矢印),磁力線に沿って流れてきたところをGeotail衛星が観測したと考えられる.

 

図2に示した結果は,以下のようなGeotail衛星の粒子・磁場観測から導かれたものです.
(1) Geotail衛星が昼側マグネトポーズ付近を航行中に,磁力線に沿って北側から飛んでくる高エネルギー酸素イオン(> 180 keV)を観測した(図3).
(2) Geotail衛星での低エネルギープラズマ・磁場観測は,Geotail衛星の北側のマグネトポーズで磁気リコネクションが起こっていることを示唆していた(図4).

図3. 観測された高エネルギー酸素イオンフラックス.横軸が時間,縦軸がピッチ角を表す.磁場の南北成分は北向きであったので,ピッチ角90-180度で卓越するフラックスはGeotailの北側から磁力線に沿って南向きに流れてきたことを示している.下部の色つき棒はGeotailの観測領域を表しており,水色が磁気圏内,黄色がマグネトシース,そして茶色がその境界領域である.

 

図4. 磁気リコネクションがGeotail衛星の北側で起きていたことを示す解析結果.リコネクションがおきている時,「リコネクションジェット中の磁力管に乗った系ではプラズマが磁力線に沿って(背景プラズマの密度と磁場で決まる)一定速度で流れる」という理論に基づいている(参考:「リコネクションポイントは後退している」).

 

これらの結果を纏めた解釈を表すのが図2です.IMFの子午面成分は北向きだったため,反平行に近い高緯度のマグネトポーズで効率よく磁気リコネクションを起こしていたと考えられます.夕側(図の奥側)の閉じた磁力線とリコネクションが起き,そこから磁気圏内の高エネルギー酸素イオンが流出してきたと考えると,観測結果をよく説明できます.

なお,これらの観測結果が得られたのは磁気嵐と呼ばれる磁気圏の大規模擾乱が起きていたときで,これはリングカレントイオンの流出が劇的に起きるタイミングです.観測された酸素イオンのフラックスはリコネクション領域由来のものが圧倒的であり,(少なくともGeotail衛星の観測場所では)FLR効果による流出よりも優勢であったと考えられます.

また,流出量を定量的に評価したところ,磁気圏からの酸素イオン流出,及び磁気嵐時のエネルギー流出に関して,このIMF北向き時の流出経路が重要である可能性が示されました.

 

参考文献:

Kasahara, S., H. Hasegawa, K. Keika, Y. Miyashita, M. N. Nishino, T. Sotirelis, Y. Saito, and T. Mukai, "Escape of high-energy oxygen ions through magnetopause reconnection under northward IMF", Ann. Geophys., 26, 3955-3966, 2008.

Paschalidis et al., "Energetic ion distributions on both sides of the Earth's magnetopause", J. Geophys. Res., 99, 8687-8703, 1994.

Seki et al., "On Atmospheric Loss of Oxygen Ions from Earth Through Magnetospheric Processes", Science, 291, 1939-1941, 2001.

Zong et al., "Ring current oxygen ions escaping into the magnetosheath", J. Geophys. Res., 106, 25,541-25,556, 2001.